「白蛇の道」2彼からの電話に飛びついてしまった。 「もしもし、貴さん。」 「どうしたんだい。息せき切って。」 彼も普段と違うとわかってくれたみたい。 「今、どこにいるの?」 「うちに帰ってきたところだよ。」 「すぐにうちに来てくれないかしら。」 「なぜ? 何かあったの?」 「言っても信じてもらえないと思う。 とにかく来て欲しいの。お願い。」 「分かった。今すぐ行くから待ってな。」 「ありがとう。」 ホッとして、受話器を下ろす。 振り向くと、白蛇が私を見ていた。 二人?きりでいるのは耐えられない。 早く彼が来てくれないかしら。 こんな時は時間が経つのが遅い。 時計の針の音さえ、のろく感じるのだ。 白蛇はなぜか黙ったままだ。 電話を聞いて、考え込んでいるのだろうか。 しかし、おもむろに鎌首を上げたかと思うと、 「男など呼んでも無駄だ。」と一言。 それからまた何も話さない。 彼が来ても話さないとしたら、信じてもらえるだろうか。 案の定、彼が着いて、事の顛末を話しても、 蛇が話さないので、訝しがっていた。 「本当に、この白い蛇が言葉をしゃべったのか?」 白蛇が話さないことには、信じられないだろう。 「私を信じて。話すのはともかく、 ここに白蛇と二人にしないで。」 私が不安がって、彼にすがりついたから、 「分かった。今日はここに泊まるよ。」 と言ってくれた。 いったん白蛇をつかんで、外に放り出してくれたのだが、 なぜかまた部屋に入り込むので、放っておくことにした。 とにかく彼さえそばに居てくれれば、安心だ。 このままずっと居てくれればいいのにな。 でも、白蛇に見られてるようで、いたたまれない。 彼も、落ち着かないようだ。 彼に肩を触れられたが、ビクッとしてしまった。 それで察したらしく、もうそれ以上は触れてこない。 二人とも、なかなか寝付かれなくて、 天井を見上げて、いろんな話をしていたら、 いつの間にか眠ってしまったらしい。 朝目覚めると、不思議に白蛇は見当たらなかった。 「貴さん、起きて。 蛇はいなくなったみたい。」 まだ寝てる彼を揺り起こす。 「うーん。蛇って?」 まだ寝ぼけてるのか、わかってないみたい。 「でもよかった。貴さんに恐れをなしたのかしら。」 感謝してるのに、照れ隠しで笑ってしまった。 「そうかもね。頼りになるだろ。」 「目が覚めたら、急に威張るんだもの。現金よね。」 からかうように言うと、 「こいつ、せっかく飛んできてやったのに。」 と頭をこつんと軽く叩かれてしまった。 蛇がいなくなって、二人ともはしゃいでいたのだ。 彼も実は蛇が怖かったらしい。 私の前では怖いそぶりを見せまいとしてたけど、 蛇をつかむ手が震えてたもの。 でも、そんな思いをしてまで、助けてくれたんだよね。 「本当にありがとう。 お礼に朝食をご馳走するね。」 「当たり前だよ。」 「急で大した物はないけど、ごめんね。」 「小百合より、僕の方が料理うまいかもよ。」 と一緒に台所に立ってくれた。 包丁捌きが慣れてるな。 ご両親と同居なのに、料理するのかしら? 「うちでも、料理するの?」と聞くと、 「親が共稼ぎだったから、夕食は僕が作ってたんだぞ。」 「すごいね。私は一人暮らししてからだから、 まだあまり得意じゃないの。」 「しょうがないな。僕が作ってやるよ。」 なんか新婚家庭みたい。 こういう毎日が過ごせたらいいのに。 朝食が出来て、二人で顔を見合わせながら食べた。 お互い仕事だから、のんびり出来ないけど、 一緒に食べると美味しい。 彼はいったん、うちに帰って着替えてから行くという。 昨日、帰ったままの姿で来てくれたんだものね。 うちに来ても、泊まったことはなかったから、 蛇が来たのも、かえっていいきっかけになったかな。 それにしても、蛇はどこにいったのかしら。 それはとにかく、私も仕事に早く行かないと。 下の「続き」をクリックすると、続きが読めます。 続き |